母と味わった、伊勢という時間(後編)

「本当に、私たちが歩いている間だけ、雨が待ってくれていたみたいだね。」
そんな話をしながら、内宮参拝を終えました。
今回の旅は雨予報でしたが、不思議なことに参拝の時間になると空がもちこたえ、
帰るころにポツリポツリと降り始める。
まるで少しだけ味方をしてもらえたような、そんな気持ちになる時間でした。
内宮参拝の帰り道、前日にタクシーの運転手さんが教えて下さった
神馬のいる馬舎へ立ち寄ることに。
本来なら毎月「一」のつく日に、内宮では神馬が歩く姿を見ることができるそうです。
でも、この日は雨のため中止。
「今日はやっぱり雨で中止だったね。」そんな話をしながら、
母と二人で静かにお馬さんを柵越しに眺めました。

そこには、本当に美しいお馬さんが静かに立っていて。
「会えて嬉しいよ」
そんなふうに話しかけると、
耳をぴくぴく動かしながら、じっとこちらを見つめてくれていました。
母と二人「ちゃんと聞いてくれているみたいだね」
なんて笑いながら、静かにその場を後にしました。
宿へ戻り、朝食をいただいたあとは、窓の外の緑を眺めたり、少しうとうとしたり。
急がない時間というのは、こんなにも身体を緩めてくれるものですね。
お昼頃「さて、おかげ横丁を歩こうか」と再び外へ。
傘を持って出たものの、やはりお天気は不思議なほど持ってくれて。
今回、事前に気になっていたお店のひとつが「豚捨」さん。
メンチカツとコロッケをひとつずつ買い、二人で半分こしながらいただきました。

揚げたての温かさと、じゅわっと広がる旨み。
「美味しいねぇ」
そんな何気ない会話まで、なんだか幸せな時間。
そのままおかげ横丁を歩いていると、
母がふと「ラーメンが食べたい。」と。
実は事前に”横丁そば”というお店を調べていたので、ちょうど近くにあったそのお店へ。

旅先でいただく一杯は、いつもより少しだけ特別に感じますね。
翌朝、母が「川べりをまた歩きたい」と言い、
少し早起きをして五十鈴川沿いをゆっくり散歩を。

気づけば、また内宮の宇治橋まで。
前日とは違う、朝の光に包まれた伊勢神宮。
同じ場所なのに、空気も景色もまるで違う。
その一瞬一瞬を味わうように、二人でゆっくり歩きました。
帰り道は「名古屋といえば、ひつまぶし食べてみたい」
という母の一言で、JR名古屋駅のお気に入りのお店へ。
すると想像以上の行列。
予約していた新幹線では少し慌ただしいかな?
ということで、思い切って一本後へ変更。

「これならゆっくり食べられるね」
時間に追われず味わえたひつまぶしは、より美味しく感じられました。
振り返ってみると今回の旅は、お天気も、移動も、食事も…
不思議なくらいすべてが心地よく流れていきました。
何より、もうすぐ80歳の母が驚くほど元気に歩き、笑い、
「また来たい」と話してくれたこと。
それが本当に嬉しかったです。
今回の旅は、母と一緒に同じ空気を味わい、同じ景色を見て、
同じものを「美味しいね」と笑い合えた時間でした。
そして、風の音や木々のさざめき、鳥のさえずりや水の音、歩くときの玉砂利の音…
全身を優しく包む自然の旋律が、何とも心地よくて。
その静かな記憶が、今も心の中にやわらかく残っています。
番外編。
内宮の大木を見上げ、そして立派な根が美しく。
どこまで根を張っているのかな?と思うと、その力強さに思わず抱きついちゃいました。
母撮影。
